Photo by Craig Owen/Oxfam International
サミットが終わりました。
以下、項目ごとに振り返りたいと思います。長くなりますが、ご辛抱ください。
1. 気候変動
世界で最も豊かな8つの国々は、温暖化ガスを2050年までに大幅に削減することに合意しました。このことは、数週間前までブッシュ米大統領が温暖化の問題の存在すら認めようとしなかった事実を考えれば、大きな前進といえるのかもしれません。また、気候変動の影響を最も大きく受ける貧しい国々も参加できる形で解決策を議論するための最善の形である、国連での議論を続けることに、それまで難色を示していたアメリカも合意しました。これらの成果は、議長であったドイツのメルケル首相のリーダーシップによるものだと思います。
しかし、温暖化ガス削減といっても、最大の汚染国である米国やロシアが削減目標を設定せずに済んでいたり、日本、EU、カナダは50%削減としていますが、いつのレベルからの50%なのかについては明記していないため、最終的に温暖化を、壊滅的な影響をもたらす2℃未満に抑えることができるのかどうかはまったく不明です。
また、すでに待機中に出てしまっている温暖化ガスの影響で、今後しばらくは温暖化が悪化することは確実で、その影響によってすでに被害を受けている人々、また今後悪化する被害を抑えるために貧しい国々を支援する必要がありますが、このことについては期限や金額についてまったく合意されておらず、G8は、汚染国としても、富裕国としても責任を果たしていないことになります。
2. アフリカ
G8は今回、「HIV/AIDSその他の感染症対策用に600億ドル拠出する」ことを、最大限に自画自賛しています。たしかに感染症の問題は深刻であり、たくさんの人々が命を落としているため、どのような支援の増額も歓迎されるべきことではあります。しかし、この600億ドルにはすでに約束されていたお金が多分に含まれているほか、何年間にわたっての合計600億ドルなのかもわからないため、HIV/AIDSなどの感染症対策に必要とされている金額をどれだけ満たせるのか、見えづらいのです。3年間という国もあれば10年間という国もあり、結局そのうちの大部分を出すことになっている米国に合わせて平均5年とすると、実は今回の「600億ドル」のうち新規資金は、大きく見積もっても年間30億ドルほどにすぎないことが、オックスファムの試算でわかっています。
Photo by Craig Owen/Oxfam International
しかも今回のサミットで表明された具体的な資金はほぼこれだけであり、2年前にG8自身が約束した、2010年までの援助500億ドル増額、そのうち250億ドルをアフリカへ、という公約達成の道筋がまったく見えていないことには変わりません。サミット前の時点での各国の援助動向からは、2010年時点でG8は約束額を300億ドル下回るという予測が出ていましたが、今回発表された「600億ドル」により、その不足額は270億ドルになったにすぎません。
約束を破っている時点で、そのお金を何よりも必要としている世界の貧困層への背任行為でですが、「600億ドル」という大きく誇張された数字を持ち出すことで、まるで約束を果たしつつあるかのように見せかけるのは、犯罪的とも言えるでしょう。
3. NGO活動の成果
このように結果は、とても問題解決にG8が自らの責任を自覚し、それを果たしたとは言い難いものでした。しかし、それでもオックスファムを始め多くのNGOやそれを支える市民一人一人によるキャンペーン活動は、大きな成果を挙げたといえます。今回のサミットに向けてメルケル首相は当初、議題を先進国間の経済政策の調整というサミットの「原点」に戻そうとしていました。彼女がその態度を変え、地球規模課題(グローバル・イシュー)を議論することにしたのは、市民社会のキャンペーンがあったからこそでした。ドイツではコンサートや署名、新聞広告など様々な活動が展開され、メディアも気候とアフリカの問題を事前から大きく報じ、G8がまともな結論を出すのかどうかに大きく注目しましたし、政府柄の評価と同時にNGO側の評価を、テレビも新聞もとても大きく報じていました(ドイツのメディアの様子がわかるコピーなどを入手次第、アップしたいと思います)。
Photo by Craig Owen/Oxfam International
また、「600億ドル」についても、発表から間もなくオックスファムなどが真実を暴いたために、それが偽りの数字であることがヨーロッパや途上国のメディアでは大きく報じられています。これも、NGOによるアドボカシー活動がなければ、「600億ドル」のまま報じられ、先進国の市民は「わたしたちはアフリカのためにかなり大きな犠牲を払っている」と思い込まされていたことでしょう。そういう意味で、来年の洞爺湖サミットに向けて私たちが負っている責任は非常に重いものがると思いました。
また、ホワイトバンドをシンボルにした世界中のNGOの共同キャンペーン、Global Call to Action against Poverty (GCAP: 日本では「ほっとけない世界のまずしさ」として知られる)が行った記者会見では、アフリカの活動家(HIV陽性の女性も含む)が各国から集まった100人以上の記者を前に、「アフリカは豊かな地下資源を今も外国と、それと結託するエリートに奪われているために、地上の人間が貧しさに追い込まれている。これを解決するためには途上国政府を実質的に民主化すると同時に、貿易のルールを変えるなど、多くの変更をしなければいけないが、その中で『援助』というのは、先進国が行うべき最低限の償いである。我々は施しを求めているのではなく、正義を求めているのだ」と力強い訴えをしていました。これも動画に収めてあるので早いうちにアップしたいと思いますが、彼ら自身の話を聞けば、「援助」という言葉にまとわりつく南北間の上下関係や慈善的な意味合いが吹っ飛び、社会的公正を保障する公共予算であり、富の最還元の問題なんだということがストンと落ちます。私たちもその気持ちで普段から訴えているものの、途上国の人自身の言葉には、比較にならない説得力があります。
オックスファムも、政府筋から情報を集めたり、それを詳しくメディアに知らせたりした他、このGCAPの記者会見の黒子をすると共に、期間中様々なパフォーマンスなどで世界のメディアの関心を引くための活動を会場の外で行いました。「G8はアフリカへの約束を忘れて海辺リゾートで遊んでいる」ということを皮肉るパフォーマンスをしましたが(写真参照)、このときの安倍首相はなんと私でした。バルト海の水は、さすがに冷たく、パンツが濡れた時は悲鳴を上げましたが、これも非常に多くのメディアが撮影に来ており、各国の新聞の一面を飾ったりしています。
4. 「日本」という特殊な国
残念ながら、上記のような盛り上がりは日本の主要なメディアではほとんど報じられていません。気候についても、アフリカについても、ほぼ政府筋の情報をそのまま、検証することもなく報じるのみ(というは、アフリカについては報じもしないことが多いですね)。他の国のメディアが大きく注目している情報やイベントについて、取材にも来ないですし。
聞くところによると、日本のマスコミのG8取材体制は、年々小さくなり、また北朝鮮問題の担当者を送る程度になってきているとのことです。これは、戦後の日本がまた西洋の金持ち国の仲間入りをして、これらの国に認められるかどうかに関心があったことからの延長で考えると、中国の台頭や、日本に影響を与える問題の複雑化を考えると理解できますが、一方でG8が、グローバル化による様々な責任を問われ、それに対応するかどうかが途上国の住民や政府からも厳しく問われ、それがG8諸国の国際的評価などにも直結するようになってきていて、国際政治の大きな熱源になっているというもう1つの変化について、日本のメディアがあまりにも鈍感であることの証でもあります。この鈍感さのまま日本の外交が議論され決定されていくのですから、世界から評価されるべくもありません。「主張する外交」「援助の国益追求・戦略化」を言うのであれば、まずはこういった大きな流れを掴んで、国際益に自らの利益を絡ませるような戦略を練らなければ、結局独り善がりの、「僕はこんなこともできるんだよ、ほら見て」外交に終わってしまいますし、世界のATMとしては頼られても、次の世界をどう作っていくのかというビジョンを求められる時に、話は聞いてもらえないでしょう。
Photo by Craig Owen/Oxfam International
サミット終了後の安倍首相の記者会見を見ましたが、首相からの報告には、2大主要議題の一つであった「アフリカ」については一言も触れられませんでした。また、記者からの質問も北朝鮮と中国に関するものばかりで、来年日本が主催するサミットの議題が何になるのかといった質問すらも出ませんでした。他の首脳の記者会見には、比べ物にならない人数の記者が集まり、今回の合意の内容を厳しく突っ込む質問が出されていました。日本と他国とのこの違いは、サミットに限らず、ありとあらゆる国際会議の現場で見られます。つまり、政府もマスコミも、わざわざ地球の裏側まで飛びながら、国内政治というサナギの中でいつもと同じ議論をして良しとしているのです。そんなところしか見ないから、G8の場であることの意味を見出せず、取材体制を縮小したりするのでしょう。状況認識から対応策まで、すべてが間違えていると思えてなりません。このような現実を見ると(この仕事をしていると、年に1度は同じ現実を見せ付けられるのですが)、NGOの職員という立場を超えて、一日本国民として、また国際舞台で少しは自国を誇りに思いたい世代の1人として、非常に失望をさせられます。
私はオックスファムとしてのメディア活動が、世界的には大成功でも、太平洋と日本海の波の音にかき消されてしまっていることもわかりましたので(それでもいくつかの記事には載りましたが)、アフリカ支援を各国首脳や企業家に呼びかける活動で有名な、ロックバンドU2のボノ氏の取材を、彼が立ち上げたNGO、「DATA」と共催で日本の新聞記者に持ちかけました。さすがに関心度は高く、また、ボノ氏も私からのブリーフィングを受けていたので的確なメッセージを発信してくれたため、非常によい取材となりました。9日の時点で読売新聞に掲載されていることは確認しました。
なんとかリベンジという感じですが、西洋のロックスターの言葉でないと届かない、というのも何とも情けない限りです(芸能人だからというわけではなく、環境の問題にしても、貧困の問題にしても、それを政治の問題として訴える著名人は日本では非常に少ないですし、人気のピークにある芸能人ではほとんどいませんよね)。
さて、来年は北海道は洞爺湖でのサミットです。オックスファムを始め、日本のNGOがしっかりし、マスコミがしっかりし、政府に国際的な問題への取り組みや、交わした約束についての説明責任を問い、日本政府も自国のイニシアティブを発表して満足するのではなく、国際目標実現から逆算した課題を他国に突きつけ、解決に向けた実質的な貢献を促すことで、主導権を発揮する…。そうなれば理想ですが、難しそうであるということも確かです。
しかし、1度のサミットが戦いのすべてではありません。このサミットをきっかけに、国際課題へのドイツ政府の責任を問う世論は、ドイツで確実に大きくなりました。英国ではずっと前からその議論がされてきており、また2005年のサミットでは「アフリカ」についての議論が盛んに行われたために、世論調査によると、英国民が選挙の際に最も重要視する課題ランキングで、「世界の貧困問題への取り組み」が4〜5位になるという事態が起きています。日本人も同じ人間。ちゃんとした情報が行き渡り、「自分」と「相手」との心の中の国境さえ取り払われれば、かならず世論は起こるだろうし、それが来年のサミットで日本政府を突き動かすに至らなくとも、長期的にはそのような世論を大きくしていくことが必ず変化につながることは間違いありません。
私も今後1年の間に、できるだけ皆様の前に登場できるようにがんばりますので、よろしくお願いします。


特に6月の海水浴。笑
是非、太平洋と日本海のフィールドでご活躍ください!
山田さんの訴えが、特に日本の方に直感的に届きますことを願っています。
G8国別の成績表を作っていただけませんか?
今私は官庁の国際室で働いています。そこではG8や国際会議のことなどを取り扱っています。今は目下勉強中の身です^^;
今回のサミットについて山田さんの意見にとても共感しました。国内のサミットへの関心薄いですよね。
来年に向けて国中でもっと意識を高めていく必要があると思います。
山田さんの今後のご活躍期待しています!